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松山地方裁判所西条支部 平成元年(わ)56号 決定 1989年5月08日

被告人 G・M(昭46.8.13生)

主文

本件を松山家庭裁判所西条支部に移送する。

理由

本件公訴事実は、別紙のとおりであり、右各事実は、本件各証拠により明らかに認められる。そこで、以下被告人の処遇について検討する。

本件各事実は、同一機会になされた軽四輪貨物自動車の無免許運転、速度違反、信号無視等の道路交通法違反及びその際引き起こした交通事故であり、いずれも交通事犯であるところ、本件記録によると、被告人は、無免許運転による罰金刑の前科一犯のほか、多数の交通非行歴を有し、交通非行に関しては、通常なされる保護処分(少年院送致を除く)を一通り受けていることが認められ、本件の罪質等に照らすと、少年である被告人に対し、交通犯罪として本件の刑事責任を追及することも不当ではないと思料される。

また、本件記録によると、被告人は、窃盗(自動販売機荒らし)、道路交通法違反(軽四輪貨物自動車の無免許運転)により、昭和63年8月9日松山家庭裁判所西条支部で保護観察に付されたのに、その後も無為徒食を続け、暴力団構成員との交際や母親に対する暴行があり、本件が家庭裁判所から検察官に送致された後、新たに家庭裁判所に送致された余罪として、「被告人は、昭和63年9月29日ころ、愛媛県川之江市○○町○○××番地×先の路上において、A(当時23歳)の顔面を木刀で殴打し、よって同人に全治約1か月間を要する鼻骨骨折、右前額部挫創等の傷害をおわせた。」との事件が、現在松山家庭裁判所西条支部に係属中であることが認められる。

右事実によると、被告人は、交通関係以外でも非行性が強いが、右一般非行性に関しては、強力な保護処分による矯正の余地も残されており、右傷害事件については、保護処分に付される可能性も十分窺われる。ところで、仮に被告人は、右傷害事件に関して、少年院送致の処分を受けた場合でも、本件に関しては、別に刑事責任を追及されるとなると、被告人に酷に過ぎると思われる。また、被告人は、交通非行に関しても、少年院送致の処分は未だ受けていないのであるから、あらゆる保護処分が効を奏しなかったというわけではない。

以上の点に照らすと、本件については、前記傷害事件に対する処遇との関連を配慮したうえで、今一度、保護処分の可能性を検討するのが相当であると判断される。よって、少年法55条を適用して、本件を松山家庭裁判所西条支部に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 大泉一夫)

別紙

公訴事実

被告人は

第1 公安委員会の運転免許を受けないで、昭和63年10月20日午後9時59分ころ、番川県善通寺市○○町××番地×付近道路において、普通貨物自動車(軽四)を運転した

第2 同日午後10時1分ころ、道路標識により、その最高速度が40キロメートル毎時と指定されている同市○○町××番地×付近道路において、その最高速度を54キロメートル超える94キロメートル毎時の速度で前記自動車を運転して進行した

第3 同日午後10時2分ころ、同市○○町××番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を左折するに際し、右信号機の表示する赤色の灯火信号に従わず、前記自動車を運転して通行した

第4 同日午後10時2分ころ、道路標識により、追い越しのための右側部分はみ出し通行が禁止されている同市○○町××番地×付近道路において、前記自動車を運転中、道路の中央から右の部分にはみ出し約300メートルにわたり運転して通行し、もって、道路の中央から左の部分を通行しなかった

第5 同日午後10時3分ころ、同県三豊郡○○町○○××番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに際し、右信号機の表示する赤色の灯火信号に従わず、前記自動車を運転して通行した

第6 同日午後10時3分ころ、道路標識により、追い越しのための右側部分はみ出し通行が禁止されている同郡○○町○○××番地付近道路において、前記自動車を運転中、道路の中央から右の部分を約150メートルにわたり運転して通行し、もって、道路の中央から左の部分を通行しなかった

第7 同日午後10時4分ころ、同郡○○町○○××番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに際し、右信号機の表示する赤色の灯火信号に従わず、前記自動車を運転して通行した

第8 反復継続して自動車の運転に従事するものであるが、同日午後10時5分ころ、前記自動普通貨物自動車(軽四)を運転し、同郡○○町○○××番地の交通整理が行われていない交差点を○○市方面から○○町方面に左折するに際し、幅員の広い道路から狭い道路に進入するのであるから、徐行しながら進路の安全を確認しつつ左折し、もって事故を防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、進路の安全を確認することなく、時速約80キロメートルで左折した過失により、コンクリートブロックへ衝突する危険を感じて右に急ハンドルを切り自車を深さ約1メートルの路外の田圃に転落転覆させ、よって、自車の同乗者B子(当時21歳)に全治約2週間を要する右肩、両手、右膝打撲、左手小指第二関節脱臼の傷害を負わせた

ものである。

〔参考〕 受移送審(松山家西条支 平元(少)262号、301号 平元.5.30決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1 昭和63年9月29日午前零時過ぎころ、知人のA(当時23歳)から、無免許運転等を注意されたうえ、頭を小突く等されたことに腹を立て、仕返しをしようと企て、同日午前2時ころ、愛媛県川之江市○○町○○××番地×先路上において、友人から借りて用意していた全長約1メートルの木刀(平成元年押第12号の1)で、同人の顔面を1回殴打し、よって、同人に全治約1か月間を要する鼻骨骨折、右前額部挫創等の傷害を負わせ、

第2 公安委員会の運転免許を受けないで、同年10月20日午後9時59分ころ、香川県善通寺市○○町××番地×付近道路において、普通貨物自動車(軽四)を運転し、

第3 同日午後10時1分ころ、道路標識により、その最高速度が40キロメートル毎時と指定されている同市○○町××番地×付近道路において、その最高速度を54キロメートル超える94キロメートル毎時の速度で前記自動車を運転して進行し、

第4 同日午後10時2分ころ、同市○○町××番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を左折するに際し、右信号機の表示する赤色の灯火信号に従わず、前記自動車を運転して通行し、

第5 同日午後10時2分ころ、道路標識により、追越しのための右側部分はみ出し通行が禁止されている同市○○町××番地×付近道路において、前記自動車を運転中、道路の中央から右の部分にはみ出し約300メートルにわたり運転して通行し、もって、道路の中央から左の部分を通行せず、

第6 同日午後10時3分ころ、同県三豊郡○○町○○××番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに際し、右信号機の表示する赤色の灯火信号に従わず、前記自動車を運転して通行し、

第7 同日午後10時3分ころ、道路標識により、追越しのための右側部分はみ出し通行が禁止されている同郡○○町○○××番地付近道路において、前記自動車を運転中、道路の中央から右の部分を約150メートルにわたり運転して通行し、もって、道路の中央から左の部分を通行せず、

第8 同日午後10時4分ころ、同郡○○町○○××番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに際し、右信号機の表示する赤色の灯火信号に従わず、前記自動車を運転して通行し、

第9 反復継続して自動車運転に従事するものであるが、同日午後10時5分ころ、前記普通貨物自動車(軽四)を運転し、同郡○○町○○××番地の交通整理が行われていない交差点を○○市方面から○○町方面に左折するに際し、幅員の広い道路から狭い道路に進入するのであるから、徐行しながら進路の安全を確認しつつ左折し、もって事故を防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、進路の安全を確認することなく、時速約80キロメートルで左折した過失により、コンクリートブロックへ衝突する危険を感じて右に急ハンドルを切り自車を深さ約1メートルの路外の田圃に転落させ、よって、自車の同乗者B子(当時21歳)に全治約2週間を要する右肩、両手、右膝打撲、左手小指第2関節脱臼の傷害を負わせた

ものである。

(適用法令)

第1の事実につき刑法204条

第2の事実につき道路交通法118条1項1号、64条

第3の事実につき同法118条1項2号、22条1項、4条1項、同法施行令1条の2第1項

第4、第6及び第8の事実についていずれも道路交通法119条1項1号の2、7条、4条1項、同法施行令2条1項

第5及び第7の事実についていずれも道路交通法119条1項2号の2、17条4項、4条1項、同法施行令1条の2第1項

第9の事実について刑法211条前段

(処遇の理由)

少年は、出生前父母が離婚したため、母に養育されたが、基本的な躾が十分なされなかったため、感情や欲求の統制が悪く、衝動的な性格が形成され、中学2年ころから、母親に対する暴行やバイク盗等の問題行動を起こし始めた。そして児童相談所の措置により、中学2年3学期の半ばから半年間教護院で過ごした。教護院を出た後も少年は、学校に適応できず、中学校卒業後も定職に就かず、暴走族と行動をともにする等不良交友を深め、窃盗(自動販売機荒し)、道路交通法違反(軽四輪貨物自動車の無免許運転)の非行により、昭和63年8月9日保護観察に付された。しかし少年は、保護観察による指導に従うことなく、その後も無免許運転を繰り返して本件第2ないし第9の非行に至った。また感情を抑制できない性格も改善されず、本件第1の非行に及んだものである。更に少年は、本件後も、無免許でありながら、自動二輪車を買うように要求して母親に暴行を加えたり、しばしば覚せい剤を使用したり、暴力団構成員と交際したりする等、無軌道な生活を続け、非行性を更に深めている。

以上のとおり、現段階において、少年に対する母の監護は期待できず、保護観察も効を奏しないので、少年を更生させて再非行を防止するためには、少年に対し、施設内における徹底した矯正教育を行って、根本的に生活態度を改善し、規範意識を身につけさせる必要があると思料される。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 大泉一夫)

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